レコーディング秘話③
前回は表向きの「ルーツ」について書きましたが、今回はライナーノーツにも載せていない、何故僕がこのプログラムで、しかも古楽ではなくピアノとのレコーディングに臨んだのかを書きたいと思います。
このアルバムをこれまでお世話になった方々に謹呈したのですが、古楽科で師事した野々下先生には見破られてしまいました。それは、今回選んだ言語が「日本語」と「スペイン語」であるという事です。
日本の西洋音楽受容史は、明治維新から発していますが、それより以前、一度途絶えてしまった流れに、安土桃山時代のキリスト教伝来があります。特に九州はその影響が強い地域です。僕は九州は熊本の生まれであり、高校教諭であった若き父が赴任していた天草の崎津には、漁村のど真ん中に石造りの素敵な教会があります。
先日、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として、世界遺産への登録勧告があったようで、それを聞いてとても嬉しい思いになりました。
一時期は日本の古楽界でも、天正遣欧少年使節をテーマとしたコンサートが相次ぎ、僕もいくつかのアンサンブルで歌いました。スペイン・ポルトガルの文化は、知らないところで九州人に影響を与えており、当時は日本人による演奏もありました。
「ルーツ」の中には、言語における東洋と西洋の接点を、密かに表現しました。
そして、父が天草にいた頃、我が家には素晴らしいピアニストの呉恵珠さんがよくいらしており、父と三縄みどりさん、小川裕二さんの三人でジョイントリサイタルをしていました。僕も過分に呉さんの音楽の影響を受けたと思っています。そんな呉さんとレコーディングしようと思い至った話はまた次で。
つづく…